二足歩行が可能になったヒトが手に入れた、自由になる 2本の手は人間らしく生きていくために不可欠な器官です。手の中には多くの精巧な構造が詰まっているため些細な外傷病気で大きな障害が発生します。また粗暴な手術操作、初期治療のまずさにより機能障害がより大きくなることも特徴です。これらの手指の外傷 病気を専門に治療するのが"手の外科"です。 血管損傷を含む手指の外傷にはマイクロサージャリーの技術を用いて治療しています。 切断された指・肢の血行を再建する再接着術を日常的に行っています。最近 5年間に行った切断指・肢再接着は48指肢で生着率はおよそ85%です。 またその他の外傷病気による手指の機能障害に対しても東大整形外科手の外科診療班として培ってきたアイデアとノウハウを用い積極的に治療に当たっています。 少し専門的になりますが、われわれが行っている手の外科の手術を具体的に挙げてみます。 新鮮な骨折の治療はもちろん、骨折後の変形治癒に対する矯正骨切術、舟状骨骨折後などの偽関節に対する骨移植を併用した骨接合術も行います。 指の短縮や欠損に対しては骨延長術や組織移植を行います。 手指の腱断裂の修復は高度の専門的技術を必要とします。術後に腱の癒着を生じると「腱はつながったが指がよく曲がらない」事態をまねきます。癒着を生じないテクニックとリハビリテーションが必要です。不幸にしてこの事態をまねき紹介された方に対する腱剥離術も積極的に行っています。 手首の関節に対する手関節鏡検査や関節鏡の下での 三角線維軟骨複合体(TFCC)の切除、縫合術も行ないます。 手根管症候群、肘部管症候群などの絞扼性神経障害に対する除圧術を行ないます。 その他 手指瘢痕拘縮、デュプイトレン拘縮、キーンベック病をはじめとする骨の無腐性壊死、母指の変形性関節症、狭窄性腱鞘炎(バネ指 ドケルバン病)、末梢神経損傷 ・神経麻痺に対する再建、化膿性疾患、手の腫瘍などを扱います。 "外傷の治療は初期治療がその最終的な結果を大部分決定する"という考えのもと開放骨折をはじめとする新鮮外傷に24時間対処できる体制を整えてあります。骨折の治療に必要な創外固定器や各種の内固定材を院内に常備し 緊急手術を行なうことが可能です。当科では開放骨折(骨折部が皮膚を破っている骨折)は全て当日に整復固定まで行ない、感染し骨髄炎にいたることの無いように努めています。レジンを用いた創外固定はその簡便さと応用範囲の広さから当科の愛用する手術方法です。 外傷後の後遺症の問題にも最新の技術 知見を応用しています。具体例は、四肢の短縮に対し創外固定器を用いて延長術を行いその長さを回復させます。重度の骨折後に生じた膝などの関節可動域の減少に対しては関節授動術を行い良好な結果が得られています。 日本の高齢化は他国に類を見ない速度で進行しています。平均寿命は延長しましたが、高齢者では健康寿命との乖離が問題になっています。高齢者では 運動器( locomotive organ) の機能障害は複合して運動機能を障害します。例えば一人の方でも脊椎、脊髄神経、股関節、膝関節などの障害が合わさって歩行が困難になる場合がよくあります。歩行が困難な方を診察した場合、複合する障害のどれが主因で、どれから治療すべきかを判断することは、それほど容易なことではありません。そのためには整形外科の全分野に関する標準以上の知識と経験が必要です。当科では常にこの総合の考え方を大切にしています。そのために 2008年1月東大整形外科医局の指導者である中村耕三教授が提唱されたlocomotive syndrome( ロコモティブシンドローム )について当科でもその研究に協力し、 5 月には大江が委員長として日本ロコモティブシンドローム研究会を旗揚げしました。 当科では 3名の固定した常勤医師と2名の東大整形外科から派遣された常勤医師、骨軟部腫瘍専門の非常勤医師で診療に当たっています。年間500から600例の手術が安全に的確に行なえるよう週に2回カンファランスをもち、一貫した治療方針の下、主治医だけでなくチームとして患者さんの診療に当たっています。
診療部長 整形外科部長 医学博士 医師 大江 隆史 (おおえ たかし)
医学博士 医師 亀倉 暁 (かめくら さとる)
平成6年名古屋大学医学部卒業 東京大学整形外科医局員 日本整形外科学会専門医